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京都地方裁判所 昭和32年(行)2号 判決

原告 森助治郎

被告 巨椋池土地改良区

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

原告訴訟代理人は被告が昭和三一年一二月二四日原告の佐山農業協同組合に対する昭和三一年度供米代金債権一七二、五六三円につきなした差押処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

(主張)

原告(請求原因)

一、巨椋池土地改良区は旧巨椋池耕地整理組合を組織変更して成立し同組合の原告に対する別紙目録記載の分賦金債権等合計一九一、二三六円を承継したものであるが、昭和三一年一二月二四日これの徴収のため被告巨椋池土地改良区理事長池本甚四郎は京都府知事の認可を受けて、原告の佐山農業協定組合に対する昭和三一年度供米代金債権一七二、五六三円を差押えた。

二、右分賦金債権等は公法上の債権であり、しかも右差押処分は土地改良法(昭和二四年六月六日法律第一九五号以下同様)第三九条にもとずいてなされたと解せられるから同条第三項の趣旨よりみても五年の消滅時効に服するもので、差押当時すでに右分賦金債権等は時効により消滅し、右差押処分は違法であるから取消を求める。

被告

一、(認否)請求原因中第一項は認め第二項は争う。

二、(主張)本件分賦金債権は耕地整理組合の債権であり、耕地整理組合は私法人であるからその債権は私法上の債権である。仮にこれが公法人であるとしても右債権は私法人がその社員から徴集する経費と同様の性質をもつもので私法上の債権である。よつてその消滅時効は一〇年である、本件分賦金の徴収は土地改良法でなく耕地整理法によつたものであり、したがつて土地改良法第三九条第三項の適用はない。仮にこれの適用があるとしてもその期間は被告が巨椋池耕整理組合を組織変更して成立した昭和二七年八月四日より進行し五年を経過した昭和三二年八月四日をもつて完成するのである。したがつていづれの点からみても本件差押処分当時分賦金債権等の消滅時効は完成していなかつた。

(証拠省略)

理由

一、巨椋池土地改良区が巨椋池耕地整理組合を組織変更して成立し、同組合の原告に対する別紙目録記載の分賦金債権等合計一九一、二三六円の債権を承継したこと、昭和三一年一二月二四日右債権の徴収のため被告巨椋池土地改良区理事長池本甚四郎が京都府知事の認可を受けて原告の佐山農業協同組合に対する昭和三一年度供米代金債権一七二、五六三円を差押えたことについては当事者間に争いがない。

二、証人梅林正次の尋問の結果によれば巨椋池土地改良区が巨椋池耕地整理組合を組織変更して土地改良区となつたのは昭和二七年八月四日と認められるから、右分賦金債権等は耕地整理組合当時に発生したものであり、土地改良法施行法第二条によれば昭和二四年八月四日耕地整理法廃止後も三年間は耕地整理組合の行う耕地整理については同法は効力を有することになつているから、右債権の性質はまず耕地整理法にしたがつて考えなければならない。耕地整理組合は同法第一条に掲げられた内容をもつ耕地整理という一つの土地行政を行うために組織された団体であり、一定の場合には加入が強制され(同法第四四条、第五〇条)、目的遂行のため広範な強制権限を与えられ(同法第六条、第七条、第二七条、第七九条)特典をもち(同法第九条第一〇条、第一一条)、一方国家機関の監督に服しているもので、公共組合たる性質をもつ公法人であり、又組合員の負担する分賦金は耕地整理の目的遂行のための財政的基礎の中核をなすというところからその徴収に大きな強制権限を与え、組合は町村を通じあるいはみずから町村税と同様の強制徴収の方法をとることを認めており、(同法第七九条)一般私法人の社員から徴収する経費と本質的に異るもので、右分賦金債権等は公法人の公法上の債権であると認められる。(同趣旨大審院判決昭和七年七月七日民集一一巻二一号二一四五頁、同昭和一〇年二月九日民集一四巻二号一一二頁及びその後の判例)この点は原告主張の通りである。しかしながら同法第七九条第三項は耕地整理組合が滞納処分をなすについて町村制(明治四四年法律第六九号)第一一一条第一項、第四項即ち地方自治法(昭和二二年四月一七日法律第六七号)附則第一五条によつて同法第二二五条第一項第四項を準用して督促及び徴収を定めているが、先取特権及び時効(地方税に準じ五年)を規定した町村制第一一一条第五項即ち地方自治法第二二五条第五項を準用せず、前示耕地整理法第七九条第四項において先取特権の順位のみを規定しているところからみると、分賦金債権については租税債権その他公法上の債権一般に行われている時効によらない趣旨であると認められるのであり、かくして耕地整理法第七九条第一項に規定する分賦金債権等については民法の規定によりその消滅時効は一〇年であると認めるべきである。

三、原告は本件差押処分は土地改良法第三九条によつてなされたものであるから、同条第三項により右分賦金債権等は市町村税と同じく五年の消滅時効に服すると主張する。なるほど本件差押処分のなされたのは昭和三一年であり、巨椋池耕地整理組合は組織変更されて巨椋池土地改良区となり、耕地整理法もその効力を失つているのであるから、本件分賦金債権等の徴収は土地改良法第三九条によりなされたものと認めることは出来るのであるが、右分賦金債権等は土地改良法にもとずくものではなくあくまで耕地整理法上の耕地整理組合の債権であつて、その性質は土地改良区が承継し土地改良法にもとずいて徴収が行われたという事実をもつてしては変え得ないものと考えられるから同法第三九第三項の時効に関する規定を適用がないものと解され、時効期間はいぜんとして一〇年であると認められる。

四、本件差押処分が消滅時効満了前になされたことは暦数上明かであり、分賦金債権等の時効消滅を理由とする原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石崎甚八 中村捷三 尾中俊彦)

(別紙目録省略)

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